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中等科・高等科校長 烏田 信二
2022 年度 3 学期 終業式
皆さん、ごきげんよう。本日で 3 学期が終わります。この 3 学期には、私の中でいくつか印象に残る出来事がありました。皆さんと少し分かち合いたいと思います。
3学期が始まってすぐに第 68 回第 9 支部親睦音楽会が中野ZERO大ホールで行われ、聖歌隊が出演しました。高 2 を中心に上級生が全体をよくまとめ、中 1 の著しい成長を引き出して、素晴らしい歌声を披露してくれました。来る 3 月 25 日(土)には、座・高円寺 2 にてウクライナ応援チャリティコンサートが行われ、この聖歌隊が出演予定です。私はチケットを午前午後の 2 公演分予約しました。聖歌隊の皆さんの成長する姿を再び見ること、とても楽しみにしています。
1 月末に校内弁論大会が行われました。昨年は全学年オンラインでの視聴でしたが、この度は 3 学年がオンラインにて教室で視聴し、2 学年が会場にて、中 1 から高 2 までの各学年代表 2 名、合計 10 名の方の弁論を聴くことができました。私も会場にて、発表者の心の動きや息遣いを感じ取る貴重な時間を満喫しました。来年はさらに多くの方と同じ場所で感動の時間を共有できることを望んでいます。
また、2 学期の特別講座「光塩女子学院のここを変えたい!」を受講した高 2 の方の2つの提案のうち「やむを得ない事情の方のためのオンライン授業実施」が1月に実現し、2 月にはもう一つの提案「高 2 期間限定ダウンジャケット試用期間」がアンケートの取り直しや身だしなみ強化期間などの努力を積み重ねた結果として実現しました。とても喜ばしいことでした。
その他に、この 3 学期に印象に残っていることは、幾人かの方がお話をしに校長室を訪れてくださったこと。それから下校時間に校門前に立っていた私に話しかけてきてくださった方がいたことです。その中には「他者との関わり」について、傷ついたり思い悩んだりしているという内容のお話もありました。この 2 年間、コロナ禍で人と人が関わることが制限されていました。それが徐々に緩和、解禁されて来て、「他者との関わり」が増え、戸惑っている方も多いのではないかと思います。しかし、その戸惑いこそがとても意義深いことだと私は考えます。
2 学期末に高 2 文系国語表現を担当する先生から半年かけて夏目漱石の「硝子戸の中」を学んだ高 2 生徒の感想・考察が書かれた冊子をいただきました。冊子を読む前に、以前から高 2 生徒が読んでいることを知っており、気になって購入するまではして、我が家の書棚に眠り続けさせていた「硝子戸の中」を引っ張り出してきて読むことにしました。晩年の夏目漱石は体調不良が続き、外出もあまりできず、硝子戸の中の狭い空間で日々過ごしていました。出かけなくとも来客はあり、その来客との関わり、またその来客を通して思考したこと、思い出したことなどを綴った作品のようです。
高 2 の皆さんの感想・考察を読みながら共感したことは、まず愛犬ヘクトーとの思い出とその死について綴られていることに注目し、「時の力」というものを考察していること。次に生きるべきか死ぬべきか迷う女に漱石がかけた「そんなら死なずに生きていらっしゃい」という言葉や態度が漱石の優しさや誠実さを表現していると捉えていること。「いやに済ましているな」というからかいの言葉から始まる太田達人と漱石、二人の素直で率直な会話から何年も前の学生時代に二人が戻り、その信頼に満ちた時間を共有していると捉えていること。漱石が母との思い出について綴っていることを扱い、ご自身とお母様の関わりを見つめ直し漱石同様感謝の念に至っていることなどが、書かれていました。高 2 の皆さんの鋭い感性と深い考察、そして巧みな表現に感激いたしました。
これらの感想・考察から私が感じたことは、今、思い悩んでいる「他者との関わり」は永遠に続くものではないということです。皆さんは日々、思い悩みながらも、それぞれが成長していき、「関わり」は変化します。従って、今の「関わり」も成長していくのです。また、今の「関わり」が努力しても改善されず乗り越えられないもののように感じられる場合、自分にできることを行ってしばらく経つと、「時の力」が解決してくれるのだろうと思います。そして、「時の力」はその「関わり」を、さらに感謝の念へと変えていくのだと思います。生きとし生けるものは皆、一定ではなく変化していきます。命あるものには必ず平等に死が訪れます。出会いがあるところに別れがあります。だからこそ、今与えられている出会い、「他者との関わり」を、与えられた命、そして時を大切に過ごしていきたいですね。
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