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中等科・高等科校長 烏田 信二
2023 年度 2 学期始業式
皆さん、おはようございます。
今日からいよいよ 2 学期が始まります。
この夏休みは、長野県上田市の光塩山荘での林間学校が 4 年ぶりに実施され、中 1 と高 1 が行ってきました。山荘にて自然に親しみ、お互いの交流を深め成長して行く皆さんの姿を目の当たりにして、実施できたことに大きな喜びを感じました。
7 月 22 日(土)には戦禍の中にあるウクライナの人のために、有志の 18 名がJR高円寺駅前で街頭募金呼びかけに参加しました。去年から高円寺の地元の方と共に活動が続いていること、喜ばしいことです。
また、8 月中旬から 10 日間、オーストラリア短期研修も 4 年ぶりに実施できました。35 名の方がオーストラリアのブリスベンで多くの良い出会いに恵まれ、実りある時間を過ごして無事に帰ってきたことも良かったです。7 月も 8 月も補習に自習室、部活動が活発に行われていました。文化部は次の公演に向けて計画的に練習と準備を進め、運動部は関東地区カトリック校女子球技大会や第 9 支部大会、杉並区の大会などへの出場に向けて練習を積み重ね、それぞれ得るものがあったことと思います。
2 学期を始めるにあたり、もう一度今年度の学校目標である「自己肯定感を高めよう!」(自分との出会い)について思い起こしてみましょう。2 学期始まってすぐラーニングコモンズ開室を記念して、校内ビブリオバトル大会が企画されています。ぜひ挑戦してみてください。その他にも 2 学期は行事が目白押しです。行事を通して多くの挑戦をすることで自己肯定感をさらに高めてください。直近の全校行事は体育祭です。皆さんの中で、運動への意識が最も高まる時期です。運動は自己肯定感を高めるためにかなり有用です。アンデシュ・ハンセン著・御舩由美子訳「運動脳」(サンマーク出版)によると、この 100 年で人類の生活習慣は激変しましたが、 1 万 2000年前いわゆる原始人の時代から生物学的な見地に立てば、私たちの脳はさほど大きく変化していないとのこと。サバンナで暮らしていた頃は食料を調達するために狩りに出て、活発に動くことで脳は敏感に反応し、よく働いていました。私たちの体は動くのに適したつくりになっていて、脳も例外ではありません。運動することで脳は活性化されます。運動することでストレス物質コルチゾールをコントロールでき、海馬に加え前頭葉を強化し、神経伝達物質の 1 つドーパミンの分泌量が増え、ポジティブな気分になり集中力が高まるとのこと。また、運動によってリフレッシュされ、創造性も高まると言います。作家の村上春樹さんは作品執筆中、毎日 10 キロのランニングをし、水泳もしているとのことです。アンデシュ・ハンセン氏はこれらのことを実験で検証した結果としてこの本の中で解説してくださっています。運動を継続できれば良いことずくめで自己肯定感は高まるばかりであると言えます。ところで、運動の量はどれぐらい何をすればよいのでしょうか。この本によればできれば毎日 30 分間のウォーキング、またはランニングを継続することとのことです。継続するにはどうしたらいいのかのヒントは、光塩女子学院中等科・高等科ホームページの「マッチ先生が贈る今月の一句― 8 月」に書いてあるように私は感じました。ぜひこちらも読んでみてください。夏休み中のマッチ先生の運動時間も約 30 分でした。運動を通して「自己肯定感を高める」こと、この機会に実践してみましょう。
この夏は、皆さんも感じていらっしゃるでしょう、今までにない暑さを体験しました。国連のグテーレス事務総長は地球温暖化ではなくもはや地球「沸騰化」と呼び方を変えました。熱波による山火事が多発し、各地を豪雨が襲いました。また、ウクライナとロシアの間では戦争が続いています。自然との平和、人間どうしの平和について考えてみましょう。1学期の終業式で紹介したべリス・メルセス宣教修道女会のシスター清水靖子が著した「新版 森と魚と激戦地」(三省堂書店/創英社)から再度考察してみたいと思います。このシスター清水の著した本について 7 月 29 日の毎日新聞朝刊の「今週の本棚」で紹介されていました。この本の中で、毎日新聞記者の目に留まったのは 2 つのことでした。「ココナッツ・ワイヤレス」とパプアニューギニアの画家、マーロン・クエリナドによる三枚の挿絵です。
「ココナッツ・ワイヤレス」とは、「ココナッツの実のように小さいけれど、しっかりしていること、ココナッツの木の下の女会議が情報を村から村へ伝えて団結してしまうこと」です。パプアニューギニア本島コリンウッド湾のウイアク村やシナパ村には、エリマラ山の裾野に広がる原生林があります。そして、ここでは女たちが伝統の樹皮布(タパ)づくりをしています。伝統のタパづくりでは、桑科のタパの木の皮を叩いてなめして、伝統の染料で文様を描きます。手触りの優しいなめらかな樹皮布で、敷物にも腰巻にも、踊りの飾りにもなります。このタパの需要はパプアニューギニア各地から絶えません。女たちは、そのつながりと収入の力で、都市の要職にも村出身の仲間を送り出し、何事かあれば、首都に伝令を飛ばし、この原生林を守るため、伐採を迫る企業の侵入を防ぎ、裁判に迅速に訴え、幾度も勝ち抜いてきています。
マーロン・クエリナドさんは、パプアニューギニア本島マダン州のゴゴール渓谷のべリン村に 1960 年 6 月 25 日に生まれました。奥地の森から豊かな水系と湧き水、無数の流れを集めたゴゴール河は、肥沃な大地を育みながら、北岸に注いでいました。マーロンさんの村は、その中央に位置して狩りの森と川遊びと泉の水源郷でした。村の裏の川でお母さんは洗い物、弟たちは砂遊び、お兄さんとマーロンさんは川に飛び込んだり、魚を釣ったりして遊びました。深い森は、お父さんの狩りの場でした。お父さんからは「マーロンよ、狩りの勇者になるのだよ」と言われて育ちました。しかし、 13 歳のとき・・・、そのすべてが終わりました。日本の企業が来て、見渡す限りの森を伐っていったのです。森は丸裸になって何マイルも何マイルも、ずっと遠くまで見渡せるようになりました。マーロンさんはお父さんと一緒に裸になった大地に座って泣きました。マーロンさんは、永遠に失われていった故郷の記憶を取り戻すかのように「墨一色の絵」で故郷を描き続ける画家になりました。お話を聴いたシスター清水はマーロンさんに言いました。「もし私が、あなたの『森の記憶』を本にするとしたら、あなたの絵を描き下ろしていただけますか」マーロンさんはうなずきました。数か月後、マーロンさんから描き下ろしたばかりの絵が包装されて送られてきました。包みを開きながらシスター清水の目からは涙がほとばしり出ました。その絵から、風の囁き、月夜の村人の会話、川べりの子どもたちの声、お母さんのつくるタロイモ料理の匂いが、祭りの踊りのリズムにのって、森を流れて、聞こえてくるようでした。
「ココナッツ・ワイヤレス」を実践している女性たちは、次の世代の子どもたちの将来のことも考え、非暴力・不服従で平和的に知恵を出し合って協力し森を守り、子どもたちの未来の生活を守っています。マーロン・クエリナドさんも決して暴力に訴えることなく、ご自身のできる方法で、宇宙の唯一の青い星、その森と自然を守ることの大切さを訴えられています。
私たち光塩女子学院で教育を受けた者の進むべき平和への道を示しているように私は感じました。皆さんはいかがでしょうか?
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