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中等科・高等科校長 烏田 信二
2024年度 1 学期始業式
皆さん、おはようございます。
中等科 1 年生、高等科 1 年生の皆さんとは、昨日の入学式でお目にかかりましたが、中等科 2 年生、3 年生、そして高等科 2 年生、3 年生の皆さんとは、2024 年度になってから、正式にお会いするのは、今日が初めてです。
皆さん、ご入学、そして、ご進級おめでとうございます。新しい学年のスタートにあたり、気分も一新し、様々なことに挑戦して参りましょう。
私自身も校長として 3 年目の学院生活がスタートいたしました。慌ただしい毎日ですが、皆さんの成長を楽しみに見守りつつ、皆さんと共により良い一年にして参りたいと思います。よろしくお願いいたします。
年度初めですので、建学の精神について確認しておきたいと思います。ご存知の通り、新約聖書マタイによる福音書 5 章に「あなたがたは世の光である」「あなたがたは地の塩である」というイエス・キリストの言葉があり、この「光」と「塩」をとって光塩女子学院という校名になりました。この聖書の言葉の意味は、いろいろありますが、皆さんの生徒手帳2ページには「『自分の周りに喜びと光をまくことのできる女性となれるように』という毎日の祈りのことばは、私たちへのまねきであり、また私たちの望みの表れでもあります。自分を他の人々に開き、与えて生きるとき、そのまねきに応えて、成長していきます。」とあります。ここから中 1 の学年目標は「自分との出会い」になっており、続いて、中 2 の学年目標は「他者とのかかわり」になっています。人は自分を愛することができれば、他の人、他のものを愛することができます。自分を大切にすることができれば、同じように他の人も、他のものも大切にすることができるのです。従って、私たちがより良く成長して行くためにはまず自分を大切にすること、そして、周りの他者を大切にすることだと言えます。
そこで、今年度の目標は、「他者に向かって開く」(他者とのかかわり)といたしました。今日はその「他者に向かって開く」とは、どんなことなのか考えてみたいと思います。私も周りの方も幸せな状態になるには、お互いに大切にし合うことが必要です。言い換えると、他者に向かって開くということは、他者へ愛を向けることになります。
それでは「愛」とは何でしょうか?古代ギリシア語で日本語に訳されている「愛」は 4 種類あるようです。まず一つ目がエロス(Eros)、二つ目がフィリア(Philia)、三つ目がストルゲー(Storgḗ)、四つ目がアガペー(Agapē)です。
まず、エロスとは、達成と欠如との中間にあって真善美を追い求めていく衝動力、性的な愛や情熱、対象に対する魅力や欲望を生み出す力のことです。これは知識を求めていく力にもなりますし、自分にないものを求めていきます。異性などへの憧れ、恋愛もそうですし、皆さんの成長のために必要なものです。
二つ目のフィリアは、友愛、友人の間で働く信頼や結束の心。共通の価値や目標を中心にした自発的相互的な親愛関係です。特に今の皆さんが学院生活の中で培っているものです。悩みながらも深めていってください。
三つ目のストルゲーは、親子や兄弟姉妹の間の家族愛で自然な愛情です。私の中高時代を思い返してみますと、気持ちはフィリアに傾いていて、ストルゲーをないがしろにしていたような覚えがあります。皆さんはいかがでしょうか。
最後の四つ目のアガペーは、神の人間に対する愛。人間の神や隣人に対する愛。無償の愛です。これはなかなかできるものではありません。まさに神業です。アガペーの実践者としては、この学校の創立者マドレ・マルガリタがそうです。マドレ・マルガリタは50歳の誕生日を迎える二日前に癌で亡くなりましたが、痛みに苦しみながら死の直前に仰った言葉がそれを物語っています。「心配しなければならないことがたくさんあるでしょう。でも、天国からお助けします・・・。きっと、必ず・・・。」また、多くの方が私はマドレからとても大切にされた、愛されたと証言していることからもそのことが伺えます。
同じ時代を生きたポーランド人のコルベ神父という方がいらっしゃいます。日本の長崎にも6年間宣教にいらっしゃいました。ナチス・ドイツに捕らえられ、アウシュビッツ強制収容所で一人の人の身代わりとなって亡くなりました。餓死刑を言い渡された若い方が家族のもとに帰りたいと嘆いているのを聞いて、身代わりを申し出てご自身の命を捧げた方です。まさにアガペーのなせる業だと思います。
そのコルベ神父と共に来日したポーランド人のゼノ修道士という方がいらっしゃいます。ゼノ修道士は、コルベ神父が帰国した後も日本にとどまり、日本で生涯を終えました。第二次世界大戦後、貧しくて身寄りがない人がたくさんいました。いつも笑顔でいろんな人に近づいて行って話しかけ、親しくなり、協力を仰ぎ、人々の善意を引き出し、困っている多くの人を助けました。ご自身がアガペーを実践して生きていることに加えて、多くの人をアガペーに導いた方です。
そのゼノ修道士に導かれ、台東区の言問橋付近にあった貧しい人たちの集落、アリの町の人々のために生涯を捧げ、アガペーを実践した方がいます。アリの町のマリアと呼ばれました。北原怜子という方です。北原怜子さんは、妹の肇子さんの光塩女子学院初等科入学を機にキリスト教に興味を持ち、当時の副校長マドレ・アンヘレスから教えを受け、光塩女子学院の聖堂でカトリックの洗礼を受けた方です。詳しくは校長室前に関連した本を置いておきますので、読んでみてください。
この北原怜子さんからゼノ修道士、その出身国であるポーランドとの繋がり、ご縁があり、4 月末、「駐日ポーランド共和国大使館におけるゼノさんの日」に本校の聖歌隊の方々が招かれ、駐日ポーランド大使館にて歌を披露する予定となっています。また、その数日後、今度は駐日ポーランド共和国大使館の方が日本とポーランドの交流の歴史についての講演をするため来校してくださいます。同日、エンタテイメントユニット自由の翼(2015 年から東京で活動)の方々による朗読劇「ポーランドから来た風の使者ゼノ」の公演もあります。楽しみにしていてください。
このような様々な機会と平穏な日常生活の中で、多くのことを貪欲に吸収しつつ(エロス)、周りの友だち(フィリア)や家族(ストルゲー)を大切にすること、愛することを学び、今年度の目標「他者に向かって開く」を実現していきましょう。最終目標はアガペーです!
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